手続き 2026年5月5日 読了 約8分
遺言書の種類と書き方のポイント【自筆証書・公正証書・秘密証書の比較】
遺言書がなければ、遺産は法定相続分どおりに分けるか、相続人全員の合意が必要な遺産分割協議で決めることになります。
しかし遺言書を残すことで、被相続人の意思を法的に反映させることができます。
この記事では、3種類の遺言書の違い・書き方の要件・法務局保管制度・付言事項まで詳しく解説します。
1. 遺言書が必要な理由
遺言書がない場合、遺産の分け方は法定相続分が基準になります。
法定相続分とは民法で定められた相続割合で、たとえば配偶者と子2人が相続人であれば
配偶者1/2・子それぞれ1/4が原則です。
法務省のデータによると、自筆証書遺言書保管制度(法務局保管)の利用件数は制度開始(2020年7月)から年々増加しています。
しかし「自宅は配偶者に、預貯金は子に」など実際の希望が法定相続分と一致しないケースは多くあります。
その場合は相続人全員が参加する遺産分割協議で合意する必要がありますが、
家族間の意見が対立すると長期間の紛争に発展することもあります。
遺言書が特に重要なケース:内縁の配偶者や認知した子への財産承継・
特定の相続人への事業承継・相続人以外(孫や慈善団体など)への遺贈・
法定相続分と異なる割合での分割を希望する場合。
2. 自筆証書遺言の要件と注意点
自筆証書遺言は、遺言者が自分一人で作成できる最も手軽な遺言書です。
ただし民法で定められた要件を一つでも欠くと無効になるため、注意が必要です。
有効性の4要件
- 全文自筆:遺言書の本文をすべて手書きで記載する(パソコン打ち不可)
- 日付:「令和○年○月○日」と具体的な日付を記載(「吉日」などは無効)
- 氏名:署名(フルネームでなくてもよいが通常はフルネーム)
- 押印:認印でも可だが、実印が望ましい
2019年改正のポイント:財産目録については、自書でなくパソコンで作成したものや
通帳のコピー・不動産の登記事項証明書のコピーを添付することが認められました(各ページに署名・押印が必要)。
自筆証書遺言のメリット・デメリット
- メリット:費用がかからない・一人でいつでも作成・書き直しが自由
- デメリット:紛失・偽造のリスクがある・検認手続きが必要(法務局保管を除く)・要件不備で無効になるリスク
3. 法務局の遺言書保管制度(2020年導入)
2020年7月から、法務局(遺言書保管所)に自筆証書遺言を預けられる制度が始まりました。
手数料は1件3,900円と低コストで利用できます。
主なメリット
- 紛失・偽造・隠匿のリスクがなくなる
- 遺言者が死亡した後、相続人などへの通知サービスが受けられる(通知の申請が必要)
- 家庭裁判所の検認手続きが不要になる(相続手続きがスムーズになる)
- 遺言書の画像データが管理されるため、内容の確認が可能
注意:法務局は遺言書の内容の有効性を審査するわけではありません。
形式的な要件(全文自筆・日付・署名・押印)のチェックは行いますが、
内容が法的に適切かどうかは確認されません。
4. 公正証書遺言の作り方
公正証書遺言は、公証役場で公証人が作成する最も法的安全性の高い遺言書です。
原本は公証役場に保管されるため、紛失・偽造のリスクがありません。
作成の流れ
- 遺言内容を整理し、公証役場に事前相談・予約
- 必要書類を準備(戸籍謄本・不動産の登記事項証明書・固定資産評価証明書など)
- 証人2名を用意(相続人・受遺者・その配偶者・直系血族は証人になれない)
- 公証役場で遺言者・証人2名の立ち会いのもと作成・署名・押印
費用の目安
公証人手数料は財産の総額によって異なります。遺産総額が1億円以下の場合は数万円程度が目安ですが、
財産額が大きいほど手数料は高くなります。司法書士や弁護士に依頼する場合は別途費用が発生します。
公正証書遺言のメリット:検認手続きが不要・法的要件の不備による無効リスクがほぼない・
原本が公証役場に保管される・体が不自由でも公証人に出張してもらえる(出張費用は別途)。
5. 秘密証書遺言とほぼ使われない理由
秘密証書遺言は、遺言内容を秘密にしたまま遺言書の存在だけを公証役場で証明してもらう方式です。
封筒に遺言書を入れ、封印した上で公証役場へ持参します。
パソコンで作成した遺言書も使えるという利点がありますが、
公証人が内容を確認しないため方式の不備で無効になるリスクがあります。
また検認手続きが必要な点は自筆証書遺言と同じです。
実務上は「自筆証書遺言(法務局保管)」か「公正証書遺言」のどちらかが選ばれるケースがほとんどです。
6. 遺言書で決められること・決められないこと
遺言書でできること・できないこと
| できること | できないこと |
| 財産の分配方法の指定 | 遺留分を完全に無効にすること |
| 相続人以外への遺贈 | 相続人以外に相続させること(遺贈になる) |
| 遺言執行者の指定 | 二人以上が連名での遺言書作成 |
| 認知・養子縁組の解消 | 相手方の同意が必要な行為の強制 |
| 未成年後見人の指定 | 葬儀の方法(法的拘束力なし) |
遺留分に注意:遺言書があっても、配偶者・子・直系尊属(親)には
最低限保障された遺留分があります。特定の相続人に全財産を遺贈する遺言書を書いても、
他の相続人から遺留分侵害額請求を受ける可能性があります。
請求の時効や計算方法は「
遺留分侵害額請求とは?時効・計算方法・請求の手順」で詳しく解説しています。
7. 付言事項の重要性
付言事項とは、遺言書の末尾に法的効力を持たない形で記す「メッセージ」です。
財産の分配に至った理由・家族への感謝・生前の思い出・残される家族への願いなどを書くことができます。
法的な効力はありませんが、特定の相続人が多くの財産を受け取る理由を説明することで
他の相続人の納得を得やすくなり、遺産分割を巡るトラブルを減らす効果があります。
また、遺言者の人柄や気持ちが伝わることで、家族の心理的な負担を軽減する効果も期待できます。
付言事項の例:「長男に事業用不動産を多く譲るのは、将来の事業継続を期待してのことです。
次男には金融資産を多く渡します。二人で協力して家族を守ってほしいと願っています。」
このような一文があるだけで、相続人間の理解が深まることがあります。