父の相続手続きが終わらないうちに、今度は母が亡くなった——このように相続が連続して発生する状態を「数次相続」といいます。 誰が申告義務を引き継ぐのか、申告期限はいつになるのか、税負担を軽減する制度はあるのかなど、 通常の相続とは異なる論点が多く生じます。この記事では、数次相続の仕組みと相続税の取り扱いを具体例で解説します。
数次相続とは、ある人(一次相続の被相続人)が死亡し、その遺産分割協議や相続税申告が完了する前に、 相続人の一人が死亡して次の相続(二次相続)が開始する状態を指します。
数次相続の典型例
| 時期 | 出来事 |
|---|---|
| 2026年1月 | 父が死亡(一次相続開始。相続人は母・子2人) |
| 2026年8月 | 遺産分割協議がまとまる前に母が死亡(二次相続開始) |
| その後 | 子2人が、父の遺産分割と母の遺産分割を同時並行で進める必要が生じる |
このケースでは、母が生前に持っていた「父の遺産に対する相続分」がそのまま母の遺産の一部となり、 子2人がそれを相続します。一次相続と二次相続の相続人・遺産が重なり合うため、通常の相続より手続きが複雑になります。
数次相続とよく混同される制度が「代襲相続」です。両者は死亡の前後関係が逆になる点で明確に異なります。
数次相続と代襲相続の比較
| 項目 | 数次相続 | 代襲相続 |
|---|---|---|
| 死亡の順序 | 被相続人が死亡した後に相続人が死亡 | 被相続人より先に相続人(子)が死亡 |
| 相続人になる人 | 死亡した相続人の相続人(配偶者・子など) | 死亡した子の子(孫)のみ |
| 取得する権利 | 遺産分割協議に参加する地位そのものを承継 | 代襲した者の法定相続分をそのまま取得 |
代襲相続については「相続人の範囲と法定相続分の一覧」で詳しく解説しています。 どちらに該当するかによって相続人の範囲や相続税の2割加算の有無が変わるため、まず死亡の前後関係を正確に確認することが重要です。
通常、相続税の申告期限は「相続の開始があったことを知った日の翌日から10か月以内」です。 しかし数次相続が発生した場合、一次相続について申告すべき者(二次相続の被相続人)が 申告期限前に申告書を提出しないまま死亡したときは、その者の相続人が申告義務を引き継ぎます。
承継した申告義務の期限 = 二次相続の開始を知った日の翌日から10か月以内
相続税法27条2項に基づく特例
前述の例で確認しましょう。父の死亡(一次相続)を知った日を2026年1月10日、母の死亡(二次相続)を知った日を2026年8月5日とします。
申告期限の具体例
| 申告内容 | 申告義務者 | 期限 |
|---|---|---|
| 父(一次相続)の相続税申告のうち、母が本来提出すべきだった分 | 子2人(母の相続人として承継) | 2026年6月5日(母の死亡を知った日の翌日から10か月) |
| 父(一次相続)の相続税申告のうち、子自身の分 | 子2人 | 2026年11月10日(延長されない) |
| 母(二次相続)の相続税申告 | 子2人 | 2026年6月5日 |
短期間に相続が続くと同じ財産に対して相続税が2度課税され、税負担が重くなります。 これを緩和するのが「相次相続控除」です。今回の相続開始前10年以内に、 被相続人が別の相続や相続時精算課税に係る贈与によって財産を取得し相続税が課されていた場合に適用できます。
控除額は、前の相続で課税された相続税額を基準に、1年につき10%の割合で逓減した金額です。 つまり前の相続から今回の相続までの期間が短いほど、控除額は大きくなります。
相次相続控除額 = A × C/(B-A) × D/C × (10-E)/10
A=前の相続で課された相続税額、B=前の相続で被相続人が取得した純資産額、C=今回の相続で全員が取得した純資産額の合計、D=今回のその相続人の純資産額、E=前の相続から今回の相続までの年数(1年未満切捨て)
数次相続が発生しても、一次相続の基礎控除額(3,000万円+600万円×法定相続人数)は 一次相続開始時点の法定相続人の数で計算し、二次相続の基礎控除額は二次相続開始時点の法定相続人の数で 別々に計算します。前述の例では、一次相続(父の相続)の法定相続人は母・子2人の3人、 二次相続(母の相続)の法定相続人は子2人です。それぞれの相続で基礎控除額が変わる点に注意してください。
相次相続控除は税額から直接差し引く控除の一つです。未成年者控除・障害者控除など他の税額控除との関係は 「相続税の税額控除一覧」でまとめて解説しています。
数次相続では、一次相続の遺産分割協議に「死亡した相続人の相続人」が参加します。 前述の例では、母が生前に持っていた父の遺産に対する相続分について、子2人が母の相続人として協議に加わることになります。
不動産が絡む場合、一定の要件を満たせば父から直接子への「中間省略登記」が認められることがありますが、 要件の判断は複雑で法務局・司法書士への確認が必須です。相続登記は2024年4月から義務化されているため、 数次相続が発生している場合でも登記を先延ばしにしないよう注意してください。
数次相続の場合、協議書には「亡父の遺産について、亡母の相続人である子〇〇・子〇〇が取得する」といった形で、 誰がどの立場で参加しているかを明確に記載する必要があります。 協議書全般の書き方は「遺産分割協議書の書き方・作成手順」で解説しています。
数次相続は事前に予測することが難しいため、発生してしまった場合はスケジュール管理が最も重要になります。
遺産総額と相続人構成が固まったら、当サイトのトップページの計算機で相続税の概算を試算できます。 数次相続が絡むケースは税額控除の計算が複雑になりやすいため、目安を確認した上で税理士への相談を検討してください。
一次相続について相続放棄をするかどうかの熟慮期間(自己のために相続の開始を知った時から3か月、民法915条)は、 二次相続の被相続人(前述の例では母)が本来持っていた期間を、母の相続人(子2人)がそのまま引き継ぐわけではありません。 子2人にとっての熟慮期間は、それぞれ「母の死亡を知った時」から新たに数え始まる点に注意が必要です。 父の遺産に借金が多い可能性がある場合は、母の死亡後、改めて3か月以内に相続放棄をすべきかを判断する必要があります。
Q. 数次相続と代襲相続はどう違いますか?
A. 代襲相続は「被相続人より先に」相続人が死亡していた場合に、その子(孫)が代わりに相続人になる制度です。一方、数次相続は「被相続人の死亡後、遺産分割や相続税申告が完了する前に」次の相続人が死亡した場合に発生します。死亡の前後関係が逆になる点が違いです。
Q. 一次相続の相続税申告は誰が行いますか?
A. 死亡した相続人(二次相続の被相続人)の相続人(包括受遺者を含む)が、一次相続に係る申告書を提出する義務を引き継ぎます。相続税法27条2項に基づき、その者の相続の開始があったことを知った日の翌日から10か月以内に提出する必要があります。
Q. 相次相続控除は自動的に適用されますか?
A. 自動適用はされません。相続税の申告書に相次相続控除額を記載し、前の相続で相続税が課税されたことを証明する資料(前回の相続税申告書の控えなど)を添えて申告する必要があります。
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